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東京家庭裁判所 昭和47年(家)12340号 審判

申立人 太田辰夫(仮名)

相手方 太田勝蔵(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

申立人は、「遺言者太田勝蔵が昭和四七年一一月五日別紙遺言書記載のとおり遺言したことを確認する。」との審判を求め、その申立の実情として述べるところは、遺言者太田勝蔵は昭和四七年五月四日胃癌に罹り臥床中のところ、同年一一月に至り病勢悪化し危急に迫つたので、同月五日遺言者は○○病院に申立人、里見とも子、太田幸夫、太田宏昭の四名を証人として招致し、その立会のもとに、里見とも子に遺言の趣旨を口授し、同女はこれを筆記し、これを遺言者および他の証人に読み聞かせ、各証人は右筆記の正確なことを承認した上、それぞれ署名押印して、別紙のとおりの遺言書を作成したものである。

しかして、別紙遺言書によると、右立会証人である里見とも子、申立人、太田幸夫、太田宏昭はいずれも本件遺言における受遺者であることが認められるのである。そもそも受遺者は民法九七四条によつて遺言の証人又は立会人となることができないのであるから、本件遺言は立会つた証人が全員証人欠格者ということになり、結局民法九七六条一項において要求される三人以上の証人の立会を全く欠く遺言となり無効のものといわなければならない。

右無効は民法九七六条所定の主要な要件を欠くこと書面上明らかな形式的に明白な無効であるところ、同条二項三項による家庭裁判所の遺言確認審判手続においては、かかる無効な遺言についてもなお確認審判をなすべきかどうか問題である。およそ家庭裁判所の遺言確認審判は当該遺言の有効無効を確定するものではなく、当該遺言が遺言者の真意にもとづくものであるかどうかを確認するものであるから、遺言の有効無効とは関係なく遺言者の真意にもとづくものである限り家庭裁判所は確認の審判をすべきであると一般的にいうことができる。それが非訟の裁判の謙抑主義にも合致するところである。しかしながら、本件のごとく遺言が形式的に明白な無効の場合にまで同様に解することは妥当でなく、かかる場合は確認審判をしないものとするのが相当である。けだし、かかる無効は訴訟確定を待つまでもなく無効であること明らかであり、またかかる無効の遺言について真意確認の審判をすることは実益がなくかえつて有害でさえある。したがつて、申立人の本件遺言確認申立は却下すべきものといわなければならない。

なお付言するに、本件遺言が前述のとおり無効であるとしても、別紙遺言書から受遺者とされた者への贈与の効果を認める余地は別にあると解されるところ、筆頭者太田勝蔵、同申立人、同里見元一、同太田幸夫、同太田宏昭の各戸籍謄本、医師丸山正薫作成の診断書および申立人、里見とも子、太田幸夫、太田宏昭の各審問結果によると、遺言者太田勝蔵は昭和四七年一一月七日東京都○○区○○町○番地○○病院で胃癌のため死亡したが、それより二日前の昭和四七年一一月五日午後三時頃右病院に、兄弟にあたる申立人、里見とも子、太田幸夫、太田宏昭を呼び、各人との間で別紙遺言書のとおり贈与の約束をしたこと、当時遺言者は身体は衰弱していたけれども意識状態は正常で正しい判断をすることができる状態であつたことが認められるのであつて、右認定事実によると別紙遺言書によつて遺言者は申立人、里見とも子、太田幸夫、太田宏昭との間で書面による死因贈与契約をなしたものとみることができる。

なお、右遺言書中の受遺者たる太田ひろ子は立会証人になつていないので、右と同様の解釈はできないけれども、同女は遺言者の唯一の法定相続人(長女)としてその遺贈内容と同一結果の相続承継をなすことができるものといえる。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 渡瀬勲)

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